2011年9月1日木曜日

渡辺イルゼ先生のこと


今日から9月。毎年9月になると私が楽しみにしていることのひとつに、ボストン日本人会婦人部が開催する恒例のヤードセールがあります。
日本語学校のブックフェアもそうですが、日本語の本がたくさん並ぶことは、私にとってとても魅力的です。
そして、日本語学校のブックフェアとはまた違うところは、年代物の婦人雑誌の掘り出し物に出会えること・・・このヤードセールによって、どれだけ私の地下室に「ガラクタ」が増えたかわかりません(笑)
手仕事の本も、今よりもっと高度な内容のものも多くてとても参考になります。
写真などは古くても、手仕事の技術を伝えるには十分で眺めていてもあきないのです。。。

そんなヤードセールで、数年前にみつけた西川勢津子さんの「ちょっとすてきなないしょ話」という本のなかに、懐かしい先生のお名前を発見しました。
渡辺イルゼ先生。私の編み物の先生でした。




「晴耕雨読とあみもの教室」
さて、この時代に二人の子どもが生まれ、今のように保育園がある訳でもなし、ドイツから本や雑誌も買いたいし、となると先立つものが必要です。文部省から研究費を頂いた年もありましたし、打ち切られた年もありました。そこで、習い覚えたドイツ語をもとにして、あみもの教室を開き、週に三日、三十人もの人が習いに来てくださった時代も四年ほど続きましたっけ。渡辺イルゼさんとおっしゃるすてきな奥さまから、あみものとドイツ語とスイスやルーマニアの暮らしぶりをお習いすることもできました。お茶の水の駅ちかくに昌平という学校があって、週に一回イルゼ先生が逗子からでていらして、編み物好きな主婦やプロの人々が二十人ほど集まっては教えて頂きました。先生はスイスで勉強なさり、たまたま留学中の音楽学者渡辺護氏とご結婚なさって、恰度、うちの子ども達と同じ年頃のお嬢さんと坊ちゃんがいらっしゃいました。
イルゼ先生は、たくさんのあみものの本を出していらしてとても素敵なお方でした。あみものを教えながら、ヨーロッパ人の暮らし方、ものをたいせつにする生活、寒さの厳しいときに洗濯ものを干すときは、最後のゆすぎ水に塩を入れて凍結を防ぐというお話などしてくださいました。私は、あみものの他にドイツ語もお習いできましたし、一緒に習いにきている方の中にはご主人が戦争中に偉い方だったために、公職追放にかかり無職無収入になられたためあみものの内職に励む老婦人もいらしてなかなか楽しいあみもの教室でした。



私がイルゼ先生に編み物を教えて頂いたのは、もうかれこれ四半世紀も前(笑)
その頃はもうおばあちゃまでしたが、 背がすらっと高くて、上品で素敵な方でした。
とても丁寧な きれいな日本語をお話されて、私が課題を仕上げてお出しすると、「よく努力なさいましたね。きっとよいお点がいただけますよ」とおっしゃるのです。
田舎育ちの私には「え??汚点??」などと思ったことも、今では楽しい思い出です。
教えてくださる手元は寸部の狂いものなく、先生が編んでくださると、ほんとうにうっとり眺めてしまうほどにきれいな編み目が並びました。

私が教えて頂いた当時は、太い糸で、ざくっと編む、そんな編み物がはやっていました。
でもイルゼ先生は、すべては基本とからだにぴたっとそう製図の書き方、ダーツの取り方から教えてくださったのです。若かった私にはとても古くさく感じて、その辺りの講義は聞き逃していたようなところもあって、今思えば、なんてもったいない時間を過ごしたとすら思うのです。時代が変わってデザインの流行がかわっても基本は変わらない。
本当にきちんと教えていただいたなあ。。。と、今更ながら思います。

お元気でいらっしゃるかしら。
なんだか今日は、とても懐かしく思い出しています。